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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)74号 判決

原告 中田美明

被告 東京都豊島区長

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  被告は、東京都豊島区西巣鴨二丁目三五番三号所在豊島区立西巣鴨二丁目児童遊園七五一・三六平方メートル(ただし、別紙図面の赤線で囲まれた部分)の区域内に、多目的集会室を含む老人いこい室(鉄筋コンクリート造二階建建物 延面積四三九・〇三二五平方メートル)を建築してはならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、東京都豊島区の住民である。

2  東京都豊島区立児童遊園条例(昭和三九年豊島区条例第一一号。以下「本件条例」という。)は、第二条において、「児童遊園を別表第一のとおり設置する。」と規定するとともに、別表第一において、右児童遊園の一として「西巣鴨二丁目児童遊園」を掲げ、その位置を「東京都豊島区西巣鴨二丁目三五番三号」と定めている(本件条例別表第一の「西巣鴨二丁目児童遊園」を以下「本件児童遊園」という。)。本件児童遊園の区域は別紙図面の赤線で囲まれた部分で、その面積は七五一・三六平方メートルであり、右区域は本件条例制定前の昭和二五年五月から既に児童遊園として供用を開始されていたものである。

被告は、本件児童遊園の右区域内に、多目的集会室を含む老人いこい室(鉄筋コンクリート造二階建建物、延面積四三九・〇三二五平方メートル。以下「本件施設」という。)を建築することを計画し、昭和五三年度以降予算を計上して豊島区議会の議決を得、初年度は未執行に終つたものの、昭和五五年一月二三日本件施設建築のため本件児童遊園の地質調査を実施し、更に同年二月一八日本件施設の設計を委託し、翌三月末同設計を完了した。そして、同年七月下旬から八月初めにかけて、建築業者との間で、本件児童遊園内にある遊具撤去及び本件施設の建築請負契約を締結し、その後遊具撤去工事に着手した。

3  しかしながら、本件児童遊園の区域内に本件施設を建築することは、次の理由により違法である。

本件児童遊園の区域内に本件施設を建築することは、本件施設の規模、内容から判断して、本件児童遊園を廃止するもの、少なくともその主要部分を廃止するものである。ところで、地方自治法二四四条の二第一項は、「普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。」と規定しており、条例で設置された公の施設を廃止するには、当然のこととして当該条例の改廃が必要である。本件児童遊園も地方自治法の右規定に基づき制定された本件条例によりその設置を定められた公の施設であつて、これを廃止するには、本件条例を改正し、その別表第一から本件児童遊園の項を削除しなければならない。しかるに、被告は、本件条例の改正手続を経ることなく、本件児童遊園の区域内に本件施設を建築し、もつて本件児童遊園を廃止しようとするものであつて、地方自治法二四四条の二第一項の規定に違反し違法である。

4  本件施設の建築は、約二億二〇〇〇万円もの巨費を投じて行われるものであり、この違法な建築工事を続行するときは、豊島区の財政に回復困難な損害を生じさせるおそれがある。

5  そこで、原告は、昭和五五年二月一九日豊島区監査委員に対し、本件施設建築計画の是正及び右建築工事中止の勧告措置を求める旨の監査請求をしたが、同委員は、同年四月一八日原告に対し請求は理由がない旨の監査結果を通知した。

6  よつて、原告は、被告に対し、本件施設建築の差止めを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。ただし、本件児童遊園の区域、面積及び位置は後述のとおり昭和五五年五月二三日以降変更されている。

2  同3のうち本件児童遊園が地方自治法二四四条の二第一項の規定に基づき制定された本件条例によりその設置を定められた公の施設であることは認めるが、その余の事実は否認し、主張の趣旨は争う。

3  同4の事実は否認する。

4  同5の事実は認める。

5  同6は争う。

三  被告の主張

1  本件施設建築の経過

(一) 建築決定

(1) 被告は、昭和五一年一二月二日、昭和五二年度を初年度とする豊島区コミユニテイ施設等整備三か年計画を策定し、同計画の中で同区の昭和五三年度事業分として本件児童遊園の区域内の土地の一部を利用して、老人いこい室及び区民集会室からなる本件施設(当初計画の延面積は約五〇〇平方メートル、現在の計画の延面積は四三九・〇三二五平方メートル。)を建築することを決定し、更に昭和五二年一二月九日、昭和五三年度を初年度とする豊島区コミユニテイ施設等整備三か年計画を策定し、その中で前年と同じ内容で本件施設を建築することを決定した。

(2) 被告は、昭和四七年一〇月、豊島区再開発基本計画を策定し、爾来地域住民の利用に供する諸施設の建築に努めてきたが、昭和五一年一二月当時、老人いこい室は東京都豊島区立老人福祉センター及び老人憩の家条例(昭和四六年豊島区条例第二五号)に基づくもの四か所、右条例によらないもの四か所(昭和五二年一二月の前記決定当時は、右条例に基づくもの六か所、右条例によらないもの四か所)、区民集会室は東京都豊島区立区民集会室条例(昭和四九年豊島区条例第五号)に基づくもの三か所、右条例によらないもの一三か所(昭和五二年一二月の前記決定当時は、右条例に基づくもの五か所、右条例によらないもの一四か所)がそれぞれ設置されていたが、西巣鴨地域(西巣鴨一丁目ないし四丁目及び巣鴨四丁目、五丁目の地域一帯)には老人いこい室が設置されておらず、同地域に老人が個人あるいは団体で利用できる施設を設置することが必要であり、この点は一般区民が団体で利用する区民集会室についても同様であつた。また、地元住民も、昭和四八年二月二六日、昭和五〇年九月二九日に、それぞれ集会場の設置を要望する請願を豊島区議会になし、いずれもその趣旨が採択された。

(3) ところで、本件児童遊園の西側及び北側には都営住宅団地が存在していたが、東京都は、昭和四四年度から住宅改良事業を実施し、本件児童遊園の西側隣接地である東京都豊島区西巣鴨二丁目二七番の都営住宅敷地一〇三六・七六平方メートル(以下「三号館跡地」という。)を児童遊園として利用することを事業計画として定め、右児童遊園を造成後は都営住宅建設に関連する地域開発要綱(昭和四八年一一月二二日四八住計調第二一九号)に基づいて、将来豊島区に譲与することとした。

(4) 被告は、本件児童遊園の区域(七五一・三六平方メートル)に右譲与されるべき児童遊園区域(一〇三六・七六平方メートル)を編入したうえ、従来からの本件児童遊園の区域内の土地の一部を利用して本件施設を建築することとした。

(二) 本件施設の内容、設置根拠

本件施設は、延面積四三九・〇三二五平方メートル(一階部分二五三・〇四平方メートル)の鉄筋コンクリート造二階建建物であり、一階にはホール、相談室二室、集会室(舞台付和室)一室、事務室、二階には会議室一室、娯楽室一室、事務室が配置されている。

本件施設の設置は、地方自治法二条二項、三項五号ないし六号、二八一条二項により、特別区の事務とされており、老人いこい室(一階部分及び二階娯楽室)は、老人福祉法一四条一項四号、五項、一五条三項に基づく老人福祉センター(B型)として設置し、昭和五二年八月一日社老第四八号各都道府県知事・指定都市市長あて厚生省社会局長通達「老人福祉法による老人福祉センターの設置及び運営について」に準拠して地域の老人を対象とする相談、教養講座等の実施、老人クラブに対する援助等を行うものである。また、区民集会室(二階の一部)は、一般区民の集会等の利用に供するものである。更に、夜間は、老人いこい室の一部を多目的利用施設として一般区民の団体利用に供するものである。

(三) 建築の施行

(1) 本件施設の建築費予算として、昭和五三年度に一億二六一〇万二〇〇〇円が区議会において議決されたが、未執行に終り、昭和五四年度に一億一六六一万七〇〇〇円が区議会において議決され、地質調査費、建物設計委託費として三三六万円が執行されたが、その余は未執行に終つた。更に、昭和五五年度には一億二六四七万五〇〇〇円が計上され、区議会において議決された。

被告は、昭和五五年一月二三日から同年二月一二日までの間地質調査を実施し、同月一八日本件施設の設計を委託し、翌三月三一日同設計を完了した。

(2) ところで、本件施設の敷地は、次の経過により確定した。

(イ) 三号館跡地の児童遊園の造成工事は昭和五五年三月三一日に完了したので、東京都は、同年五月二一日豊島区に対し、地方自治法二三八条の四に基づき、右造成工事の完了した三号館跡地(別紙図面の青線で囲まれた部分)を児童遊園として使用することを許可した。

(ロ) ところで、本件条例三条は、「前条の児童遊園の開園、区域および面積ならびに施設の名称および規模その他必要な事項は、区長が定め、告示しなければならない。」と規定しているところ、被告は、東京都から使用許可を得た三号館跡地を本件児童遊園の区域に編入するため、同月二三日、本件条例三条の規定に基づき、本件児童遊園の区域に三号館跡地を追加し、面積を従前の七五一・三六平方メートルから一七八八・一二平方メートルに変更し、その旨告示した。

次いで、被告は、本件児童遊園区域から本件施設の敷地となるべき東北部分の土地四四三・二三平方メートル(別紙図面の斜線部分)を除外するため、同年八月一日本件条例三条の規定に基づき、本件児童遊園の区域から右土地を除外し、面積を一三四四・八九平方メートルに変更し、その旨告示した。

(ハ) なお、被告は、前記区域、面積の変更に際し、本件児童遊園の主たる出入口を変更した結果、その位置表示の変更が必要になつたので、区議会の議決を得て同年七月一二日本件条例別表第一の本件児童遊園の位置を従前の「西巣鴨二丁目三五番三号」から「西巣鴨二丁目二七番七号」に改める旨の条例改正を行つた。その後、東京都は、三号館跡地を実測して面積を一〇四九・七〇平方メートルと確定したうえ、昭和五六年四月一五日豊島区に対して右土地を譲与した。被告は、右面積変更に伴い、同月一六日本件条例三条の規定に基づいて本件児童遊園の面積を従前の一三四四・八九平方メートルから一三五七・八三平方メートルに訂正し、その旨告示した。

(3) 被告は、昭和五五年七月二五日西武不動産株式会社との間で、代金二〇五万円で遊具撤去等の工事請負契約を締結し、更に同年八月一日株式会社堀田建設との間で、代金八一二〇万円で本件施設建築工事請負契約を締結し、同月一日から右工事に着手することとした。

(4) しかしながら、原告ら一部地元住民が反対したので、説明、要望の聴取等に時間を費したが、結局理解を得るに至らなかつたので、同年一〇月三日遊具撤去等の工事に着手し、原告ら一部地元住民の実力行使による工事妨害のため同月三〇日になつてようやく右工事を完了し、本件施設の建築工事に着手した。

2  本件施設建築の適法性

(一) 本件条例二条は、児童遊園設置の根拠を定め、設置された区立児童遊園を別表第一に掲記しているが、同別表では児童遊園の名称と位置を定めているのみであり、これら児童遊園の「開園、区域および面積ならびに施設の名称および規模その他必要な事項」は区長が定めるものとしている(三条)。したがつて、児童遊園の区域、面積を変更するときは、本件条例三条の規定に基づいて区長がこれを行い、その旨告示をすれば足りるのであり、本件条例の一部改正手続を経る必要はない。

被告は、本件条例三条の規定に基づき、本件児童遊園の区域及び面積を適法に変更してその旨告示し、本件児童遊園の区域から除外された土地に本件施設を建築しようとするものであつて、本件施設建築が本件児童遊園を廃止することになるわけではないのであり、したがつて、これにつき本件条例一部改正の議会の議決を要するものではないのである。

(二) 原告は、本件児童遊園の区域内に本件施設を建築することは、児童遊園を廃止するもの、少なくともその主要部分を廃止するものであるから、区議会の議決により条例の一部改正手続を履践しなければならない旨主張するが、児童遊園としての目的を達し得ない程度に区域を極端に縮少する場合は格別、そうでない限り区長において本件条例三条の規定に基づき区域、面積を変更することができるのであつて、本件児童遊園の面積が当初の七五一・三六平方メートルから最終的には一三五七・八三平方メートルへと大幅に拡張されたことは前叙のとおりである。

(三) 以上のとおり、本件施設建築に何ら違法はなく、原告の本件差止め請求は理由がないから、原告の請求は棄却を免れない。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張1(一)(1)の事実は不知。

2  同1(一)(2)のうち、地元住民が昭和四八年二月二六日、昭和五〇年九月二九日にそれぞれ集会場の設置を要望する請願をなし、いずれもその趣旨が採択されたことは認めるが、その余の事実は不知。

右請願は、三号館跡地に集会場を設置することを内容としたものであつたのに、被告は、これを誤り従前の本件児童遊園の区域内に本件施設を建築することが請願の趣旨に副うものと判断したものである。

3  同1(一)(3)のうち、従前本件児童遊園の西側及び北側には都営住宅団地が存在し、東京都がこれについて昭和四四年度から住宅改良事業を実施し、その敷地の一部に公園を作る計画を立てていたこと、及び被告主張の地域開発要綱に都営住宅団地内に整備した公園は区に譲与する旨定められていることは認めるが、その余の事実は否認する。

東京都は、当初は右都営住宅団地内の他の土地に公園を造成する計画を立て、三号館跡地には改良住宅を建築する計画であつたが、地元住民の要望を容れ、三号館跡地を公園とすることとし、昭和五一年七月七日建設省の認可を得たものである。しかし、その後もこれをどのような公園にするかは確定せず、高学年用の運動広場として利用する等の案が出され、児童遊園として利用することになつたのは、昭和五四年以降のことである。

4  同1(一)(4)の事実は否認する。

被告は、三号館跡地を本件児童遊園に編入することを前提として本件施設の建築計画を策定したものではなく、東京都が三号館跡地の利用方法を最終的に決定する以前から従前の本件児童遊園の区域内に本件施設を建築することを計画していたものである。しかし、児童遊園を廃止することに対する地元住民の反対にあつたため、被告は、高学年用の運動広場となる予定だつた三号館跡地を児童遊園にするよう東京都に働きかけたのである。そのため、従前の本件児童遊園と右運動広場とが併置され、広いスペースが確保されるとの地元住民の期待が裏切られることになつたのである。

5  同1(二)の事実は認める。

6  同1(三)(1)の事実は認める。

7  同1(三)(2)のうち、(イ)の事実は認めるが、その余の事実は不知。

8  同1(三)(3)の事実は認める。

9  同1(三)(4)の事実は否認する。

10  同2の主張は争う。

本件児童遊園は、本件条例制定前の昭和二五年五月に児童遊園として供用を開始されたもので、昭和三九年の本件条例制定当時、その区域及び面積は明確に定まつていた。本件条例三条は、条例制定後新たに児童遊園を設置する場合又は既存の児童遊園の区域、面積等が不明確な場合に、その区域、面積等必要事項を決定する権限を区長に委ねた趣旨のものと解する余地はあろうが、既に明確になつている既存児童遊園の区域、面積等を変更する権限を区長に与えたものではない。したがつて、本件条例三条を根拠に、被告が本件児童遊園の区域及び面積を変更することは許されない。

また、従前の三号館跡地は、本件児童遊園とは幅約四メートルの公道で隔たれ、地番、所有者も異なつており、本件児童遊園とは明確に区別されていた。したがつて、ここに本件条例の児童遊園を設置するためには、本件条例の別表第一に独立の児童遊園として掲げる必要があり、被告の単なる編入行為によつて、これを本件条例の児童遊園とすることはできないのである。

したがつて、被告が、本件条例三条を根拠に、本件児童遊園に三号館跡地を編入し、更にそこから本件施設の敷地を除外するなどということはそもそも許されないのであり、被告の一連の行為は、本件児童遊園の廃止の是非をめぐる区議会の審議を回避するためのもので、地方自治法二四四条の二第一項の趣旨を潜脱する脱法行為というべきである。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因1、2及び5の事実は当事者間に争いがない。

二  本件施設建築の経過についてみるに、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、乙第一一号証、第一九号証の一、二、第二一、第二八号証、成立に争いのない乙第一八、第二〇、第二二、第二九、第三〇号証、昭和五五年七月二九日本件児童遊園を撮影した写真であることに争いのない乙第二五号証の一ないし二七、弁論の全趣旨並びにそれにより原本の存在及び成立の認められる乙第一、第二号証によると、次の事実が認められる。

1  被告は、昭和五一年一二月二日、昭和五二年度を初年度とする豊島区コミユニテイ施設等整備三か年計画を策定し、同計画の中で西巣鴨二丁目三五番三号所在の本件児童遊園の区域内の土地の一部を利用して本件施設を建築することを決定し、更に翌昭和五二年一二月九日に策定した昭和五三年度を初年度とする豊島区コミユニテイ施設等整備三か年計画の中でも、本件施設の建築を再確認し、昭和五三年度から一億円以上の建築費予算を計上して議会の議決を受け、初年度は全額未執行に終つたものの、翌昭和五四年度に至つて地質調査を実施し、建築設計も完了した。

2  これより先、東京都は、昭和四四年度から、本件児童遊園の北側及び西側の隣接地に建築されていた都営住宅団地につき住宅改良事業を実施し、順次地上建物を取り壊して新たな都営アパートを建築していた。右都営住宅団地内の三号館跡地については、当初は五階建都営アパートを建築する計画であつたが、最終的には児童遊園を造成することに変更し、昭和五一年七月七日右変更について建設大臣の認可を得た。そして、児童遊園造成後の三号館跡地は、東京都の「都営住宅建設に関連する地域開発要綱」(昭和四八年一一月二二日決定)に従い、将来豊島区に譲与されることが予定されていたため、被告は、これにより児童遊園が確保できるとの考えから、前記のとおり、従前の本件児童遊園の区域内の土地の一部を利用して本件施設を建築することを決定した。

そして、三号館跡地の児童遊園造成工事は、昭和五五年三月三一日に完了し、東京都は、同年五月二一日豊島区に対し、地方自治法二三八条の四の規定に基づき、三号館跡地を同月二二日から譲与契約締結までの間児童遊園として使用することを許可した。

3  ところで、本件児童遊園の区域内の土地の一部を利用するといつても、児童遊園内に本件施設を建築することはできないので、被告は、本件条例三条の規定に基づき、既存の本件児童遊園に右使用許可を受けた三号館跡地を編入して区域を拡張し、そのうえで本件施設の敷地となるべき土地を右区域から除外し、右除外された土地に本件施設を建築することとし、昭和五五年五月二三日、本件児童遊園の従前の区域(別紙図面の赤線で囲まれた部分)に三号館跡地(別紙図面の青線で囲まれた部分)を追加し、面積を従前の七五一・三六平方メートルに一〇三六・七六平方メートルを加えた一七八八・一二平方メートルに変更してその旨告示し、次いで同年八月一日、本件児童遊園の右変更後の区域から本件施設の敷地となるべき部分(別紙図面の斜線部分)を除外し、面積を右一七八八・一二平方メートルから四四三・二三平方メートルを除外した一三四四・八九平方メートルに変更した(決定及び告示は同年七月一六日)。これに伴い、被告は、本件児童遊園の主要な出入口を変更したので、同年七月一二日区議会の議決を得て本件条例別表第一の本件児童遊園の位置を「西巣鴨二丁目二七番七号」に改める旨の条例改正を行つた(施行日は同年八月一日)。

4  そして、被告は、本件児童遊園の区域から除外された右土地に本件施設を建築すべく、建築業者との間で、昭和五五年七月二五日同土地上の遊具徹去等の工事請負契約、同年八月一日本件施設建築工事請負契約をそれぞれ締結し、同日以降右工事に着手することになつた。

5  なお、東京都は、三号館跡地の面積を実測により一〇四九・七〇平方メートルと確定のうえ、昭和五六年四月一五日これを豊島区に譲与し、被告は、右面積変更により同月一六日本件児童遊園の面積を一三五七・八三平方メートルに訂正し、その旨告示した。

以上の事実が認められ(被告が本件施設建築のため昭和五三年度から予算を計上し、昭和五四年度に地質調査及び建築設計を完了したこと、東京都が本件児童遊園の北側及び西側の隣接地に建築されていた都営住宅団地につき昭和四四年度から住宅改良事業を実施したこと、東京都が昭和五五年三月三一日三号館跡地の児童遊園造成工事を完了し、同年五月二一日豊島区に対しその使用を許可したこと、被告が業者との間で工事請負契約を締結し、昭和五五年八月一日以降本件施設建築等の工事に着手することになつたことについては、当事者に争いがない。)、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

三  そこで、本件施設の建築の適否について判断する。

1  右に認定したとおり、被告が本件施設を建築しようとしている土地は、別紙図面の斜線部分であり、同部分は、被告の本件条例三条の規定に基づく決定により、昭和五五年八月一日以降本件児童遊園の区域から除外された土地である。したがつて、本件施設建築の適否は、被告の右決定の適否にかかるものといえるが、原告は、被告が本件条例三条を根拠に本件児童遊園の区域及び面積を変更することは許されないと主張する。

2  本件条例は、第二条で「児童遊園を別表第一のとおり設置する。」と規定したうえ、第三条で「前条の児童遊園の開園、区域および面積ならびに施設の名称および規模その他必要な事項は、区長が定め、告示しなければならない。」と規定しており、別表第一では個々の児童遊園の名称及び位置を掲げるのみで、その区域、面積等については何ら定めるところがない。したがつて、本件条例は、豊島区の設置する児童遊園につき、その設置場所を具体的に特定しているものの、その区域、面積等の決定はこれを区長に委ねているのである。そして、本件条例は、既定の区域、面積等を変更する場合の手続について特別定めるところがないから、変更も決定の一態様として右三条の規定で区長に委ねているものと解すべきである。本件条例自体は、右三条の規定のほかに設置すべき児童遊園の区域、面積等について触れるところがないのであるから、その変更について本件条例の改正を問題とする余地はないのである。また、本件条例制定前から供用を開始されていた児童遊園であつても、本件条例の適用を受ける以上特にこれを区別する理由はなく、区長は右三条の規定に基づきその区域、面積等を変更できるものというべきである。

ところで、地方自治法二四四条の二第一項は、公の施設の設置及び管理に関する事項は条例でこれを定めなければならない旨規定しており、児童遊園の区域、面積等の決定権限を区長に委ねた本件条例が右地方自治法の規定に適合するか否かは一応検討の余地があるものといえる。地方自治法二四四条の二第一項の趣旨は、公の施設の設置及び管理は住民の日常生活に与える影響が極めて大きいため、これを行政の専権に委ねることなく、条例で定めるべきであるというにある。しかしながら、公の施設の規模、内容等の細目にわたり全面的に条例で定めることは技術的にも困難であり、また、個別的具体的事情への適応性の必要、事情の変化に対する即応性の要求等の観点からいつて必ずしも適切とはいえないのであつて、条例で公の施設の設置及び管理の主要事項を定めるとともに、その補充事項を行政機関に委任することは当然許されるところというべきである。もとより、右委任が一般的、包括的にすぎる場合は、地方自治法の右趣旨を没却させることになるが、本件条例の場合、児童遊園という目的の明らかな施設につき、その設置場所を個々的に掲げて特定したうえで、その区域、面積等の決定を区長に委ねているにすぎないのであるから、地方自治法の右規定に適合しているものというべきである。しかし、地方自治法の右趣旨に照らせば、区長の決定権も無制限なものであり得ないことはいうまでもなく、区域、面積等の変更が本件条例で設置した児童遊園を実質的に廃止し、あるいはその同一性を失わせる結果となる場合には、本件条例に違反し、ひいては地方自治法の趣旨にも反するもので許されないものというべく、そのような場合には本件条例の改正を議会に諮る必要がある。

3  そこで、本件についてこれをみるに、被告は、前述のとおり、別紙図面の斜線部分を本件児童遊園の区域から除外して本件施設の敷地とする目的のもとに、従前の区域(別紙図面の赤線で囲まれた部分)に三号館跡地(別紙図面の青線で囲まれた部分)を編入し、次いで別紙図面の斜線部分を除外するという一連の決定を行つたものであり、右編入・除外の前後の面積及び形状を比較すれば、被告の右一連の決定は、本件児童遊園を実質的に廃止するものではなく(面積は七五一・三六平方メートルから一三五七・八三平方メートルに増加している)、また、その同一性を失わせるものではないと認められるから、地方自治法及び本件条例の右各規定に違反するものではないと解するのが相当である。

4  なお、原告は、三号館跡地は従前の本件児童遊園とは明確に区別されていた土地であるから、被告の単なる編入手続によつてこれを本件条例上の児童遊園とすることはできないと主張するが、三号館跡地は従前の本件児童遊園と接続し、右編入の時点では両者が一体化し、一個の児童遊園としての外形を備えていたのであるから、三号館跡地のみを独立の児童遊園として本件条例に掲げることは必ずしも必要ではなく、本件条例三条の決定権に基づく編入は可能と解される。

5  以上のとおり、被告は、本件児童遊園の区域から別紙図面の斜線部分を適法に除外したものであり、右児童遊園の区域から除外された土地に本件施設を建築することに原告主張の違法はないものというべきである(同土地を公園として残すのが妥当か、あるいは本件施設の敷地とするのが妥当かは政治的選択の問題であつて、もとより裁判所の関与するところではない。)。

四  よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 泉徳治 大藤敏 菅野博之)

別紙図面〈省略〉

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